駅に降り立ち、歌劇の街へ――
宝塚駅から宝塚大劇場への道のりは、文化の歴史と個性豊かな建築デザインが交わる、街の物語を味わえるひとときです。
この記事では、街を彩るそれぞれの表情に目を向けながら、宝塚駅から大劇場までの風景をゆっくりたどってみましょう。
1.JR宝塚駅

JR宝塚駅は1897年に阪鶴鉄道(後の福知山線)によって開業したという、古い歴史を持っています。
駅名の由来は武庫川の対岸に1887年に開場していた「宝塚温泉」。
宝塚駅の開業により、大都市大阪から宝塚温泉への鉄道アクセスが可能になったことで、当地は温泉街として発展していきました。
電化・高速化が進んだ現在では、JR大阪駅から当駅まで、快速で26分(最速)で到達できます。
現在の駅舎は2010年に完成しました。
1階にホームがあり、2階には改札口と南北自由通路がある構造です。新しい建物ですが、外観は明るいレンガ調で伝統を感じさせます。
新しい駅舎には機能的でシンプルなデザインが多いのですが、JR宝塚駅はデザイン性の高さが特徴です。
新幹線からの乗り換え客など、JR利用者にとってはこの駅が宝塚歌劇への玄関口となるだけに、歌劇の街の歴史と華やかさを意識しているようです。
駅舎内は三角の白い天井と間接照明・明かり取り窓を組み合わせており、開放的な雰囲気です。
改札横にはセブンイレブンがあるほか、駅ナカ商業施設の「エキマルェ」でお買い物もできます。エキマルェの入り口近くにある優雅な照明にも注目です。
JR宝塚駅のデザインについてはこちらのサイトで詳しく紹介されています。
2.JR・阪急宝塚駅を結ぶペデストリアンデッキ

ロータリーをはさんで向かい合っているJRと阪急の宝塚駅。ロータリーの地下を国道がトンネルで通過する立体的な構造になっています。
ロータリーの上には、両駅の改札階同士をつなぐペデストリアンデッキ(高架歩道)が設けられています。
デッキを支えるアーチ、中央部の半円形の出っ張り、らせん階段と、とてもユニークな形をしています。下から眺めてみるのもおすすめです。
3.阪急宝塚駅

阪急電鉄宝塚駅は、1910年に箕面有馬電気軌道(後の阪急電鉄宝塚本線・箕面線)によって開業しました。
宝塚歌劇や、かつての遊園地「宝塚ファミリーランド」の玄関口として、人々に親しまれてきた当駅。
駅舎は、宝塚本線・今津線の高架化に合せて1994年に完成しました。
高架ホーム全体がすっぽりと屋根に覆われた外観は、まるでヨーロッパの宮殿のよう。宝塚歌劇の玄関口らしく豪華な駅です。
1階部分には本屋やカフェ、ショッピングモールの「G・コレクション 阪急宝塚」などがあります。
改札口がある2階は、百貨店「宝塚阪急」への入り口やJR宝塚駅への連絡通路などにつながっています。
駅舎出入り口付近の1階と2階は吹き抜けの高い天井で、明るい構内は観劇への気分を盛り上げてくれます。
ホームは3階に設けられていて、終端部分には宝塚歌劇をイメージしたフォトスポットもあります。
参考:ウィキペディア「宝塚駅」
4.ソリオ宝塚

阪急宝塚駅に降りて大劇場に向かう人たちが通るのが、1993年にオープンしたショッピングモール「ソリオ宝塚」です。
開放的な吹き抜け空間をもったモダンな建物で、イベントスペースやホールも備えています。「宝塚阪急」や「G・コレクション」ともつながっているので、一体的にショッピングを楽しむことができます。
「乙女餅」「宝もなか」「やきもち」といった伝統的な宝塚名物や、新定番の「たからづか牛乳」をはじめとした、さまざまなグルメも味わえます。
参考:ソリオ宝塚
5.花のみち

ソリオを抜けて道路を渡ると、宝塚大劇場へのメインストリート「花のみち」が始まります。
ここは元々武庫川の堤防でした。川側は整地されて宝塚新温泉の施設となり、かつての堤防は1924年の宝塚大劇場開場に伴い造成されて花のみちとなりました。
整備が行き届いた花のみちでは、四季を通じて様々な花を目にすることができます。堤防の名残をとどめる大きな松の木にも注目です。
参考:阪急阪神マーケティングソリューションズ株式会社「宝塚市制70周年記念で『花のみち』がリニューアル!周辺施設と連携したデジタルスタンプラリーを開催」
6.花のみちセルカ

花のみちと阪急今津線との間には、2000年にオープンしたショッピングモール「花のみちセルカ」があります。阪神淡路大震災で被災した商店街からの復興に際して建てられました。
1階から3階に店舗があり、さらに上層にはマンションが併設されています。
宝塚大劇場に合せた南欧風のデザインで、1階と2階には回廊が設けられていて、雨を避けて歩くことができます。
あまり目立たないスポットとして、宝塚ホテルの入口から花のみちをはさんだあたり「真実の口」があります。

7.ゼッテリア花の道店

長年宝塚ファンに親しまれてきた「ロッテリア 花の道店」は、2025年3月から新ブランド「ゼッテリア 花の道店」へとリニューアルオープンしました。
改装後も変わらないヨーロッパ風の外観は、周辺の雰囲気にしっとりとなじんでいます。
この店舗の歴史を探ってみると、ロッテリアとしての開店は1979年とのこと。建物の「レトロなおしゃれ感」には昭和の宝塚の風情が残っています。
参考:Kiss PRESS「宝塚“花のみち”で46年間愛されたあのロッテリアが「ZETTERIA」としてリニューアル!」
参考:宝塚コミパ通信「【宝塚市 閉店&オープン情報】阪急宝塚駅や大劇場からスグ『ロッテリア 宝塚花の道店』が閉店!新装『ZETTERIA 宝塚花の道店』へ?!」
8.宝塚ホテル

宝塚ホテルは1926年に開業しました。長らく武庫川の対岸にある今津線の宝塚南口駅前で、街のシンボルとして親しまれていましたが、2020年に花のみち沿いに新築移転しました。
「夢のつづき」をコンセプトに、初代宝塚ホテルの「阪神間モダニズム」のデザインを継承しています。
「宝塚大劇場オフィシャルホテル」として、宝塚歌劇関連のイベントや館内展示も行われています。客室では宝塚専門のCS放送「TAKARAZUKA SKY STAGE」を楽しむこともできます。
9.宝塚大劇場

宝塚観光の中核となるのが、宝塚歌劇団の本拠地、宝塚大劇場です。
ここには「宝塚大劇場」と「宝塚バウホール」(小劇場)の2つの劇場があります。
さらに飲食、土産物、グッズの店舗や、宝塚歌劇の歴史を人物中心に紹介した「宝塚歌劇の殿堂」といった施設があり、観劇以外にもさまざまな楽しみ方ができます。
9-1.宝塚大劇場
1914年に宝塚少女歌劇が公演を開始してから10年後の1924年に、初代の大劇場が完成しました。
大衆が楽しめる娯楽を提供するために、約4000人が収容できる日本最大級の劇場となりました。
現在の大劇場に建て替えられたのは1993年です。初代では3階まであった客席は2階までとされ、約2500席のゆとりのある設計となりました。
オレンジの瓦屋根をもつ、ヨーロッパ風のお城のような外観が特徴です。
上の写真にも写っている劇場の正門、背景にあるタワーマンション、そして先に紹介した花のみちセルカにも、同じ色合いの瓦が使われています。
9-2.宝塚バウホール
正門を入ってすぐ目の前の、赤茶色の瓦に風見鶏の装飾がかわいらしい建物は、1978年に開場した宝塚バウホールです。
「バウ」とは船の舳先(bow)のこと。「新しい時代へのさきがけとなるように」との願いから名づけられたバウホールは、主に若手劇団員やスタッフの活躍の場として活用されています。
1階はカフェテリアやショップになっています。
参考書籍:『宝塚歌劇110年史』
おわりに
駅から劇場までのルートには、街の歴史、歌劇文化の香り、そして人々の記憶が息づいています。
駅舎もモールも、宝塚らしい情緒をたたえるこの界隈――歴史と文化に根ざしたこの街は、行き交う人たちに「心のふるさと」を感じさせてくれます。